これは、Paul Graham:If Lisp Is So Great を、原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
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Copyright 2003 by Paul Graham
原文: http://www.paulgraham.com/iflisp.html
日本語訳:Shiro Kawai (shiro @ acm.org)
<版権表示終り>
Paul Graham氏のエッセイをまとめた『ハッカーと画家』の
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2004/3/21 翻訳公開
Lispがそんなにすごいなら、どうしてもっとたくさんの人が使わないんだろう。 最近の講演で、こんな質問を聴衆の学生から受けた。もちろんそれが初めてじゃない。
言語では、他の多くのものごとと同じだが、人気の高さと質の間に あまり相関はない。ジョン・グリシャム(King of Torts 売上げランク 44位)の 方が、ジェーン・オーステン (Pride and Prejudice 売上げランク 6191位)より 売れるのはどうしてだろう。グリシャムは、それは彼の方が良い作家だからだなんて 言うだろうか?
Pride and Prejudice[訳註1]の冒頭の一文はこうだ。
大きな富を所有した独身男が、妻を望むようになるのは、 広く知られるところの真実である。
「広く知られるところの真実」だって? ラブストーリーの出だしにしちゃ、 ずいぶん持って回った言い方だ。
ジェーン・オーステンと同じように、Lispも難しく見える。 その構文、というよりむしろ構文が無いことによって、Lispは 大多数の人々が慣れ親しんだ言語とは 全く違って見える。 私だって、Lispを学び始める前は、それをおっかないと思っていた。 最近、1983年に自分が記したノートをたまたま見つけたんだが、それには こうあった。
たぶんLispを学ぶべきなんだろう。しかしLispはあまりに異質に見える。
幸いなことに、当時私は19歳で、新しいことを学ぶのにあまり抵抗が無かった。 何も知らなかったから、何であれ学びさえすれば、それは新しい何かを 学ぶことになったんだ。
Lispに恐れをなした人々は、それを使わない理由をいろいろ考えてきた。 Cがデフォルトの言語だった頃は、標準的な言い訳は、Lispは遅すぎるというものだった。 今や、Lispとその方言は言語のうちではむしろ 速い部類 に入るから、その言い訳は消えてしまった。 最近聞くのは、あからさまに循環している理由だ。 他の言語の方が広く使われているってやつだ。
(だが、気をつけ給え。その論理の行き着く先はWindowsだ。)
人気というものは常に正のフィードバックがかかるものだが、 プログラミング言語においては特にそうだ。人気が高い言語にはより多くの ライブラリが書かれ、それがさらに言語の人気を高める。 プログラムは、既存のプログラムと協調して動作しなければならないという ことが往々にしてある。その場合、両者が同じ言語で書かれていた方が簡単だから、 言語はプログラムからプログラムへと、ウィルスのように広がって行く。 さらに、管理職の上司は人気の高い言語の方を好む。 そういう言語を使っておけば、開発者はいつだって簡単に入れ替えられるので、 開発者に対して優位に立てるからだ。
プログラミング言語の間に大した差が無いのなら、 いちばん人気の高い、広く使われている言語を使っておくに越したことはない。 でも、長い目で見れば、言語は等価ではないんだ。 だからこそ、人気の低い言語も、ジェーン・オーステンの小説のように、 生き残っているんだ。他のみんなが最新のジョン・グリシャムの小説を読んでいる時にも、 いつだって、ジェーン・オーステンの小説を読んでいる、少数の読者がいるからだ。