リリース 0.9.11

重要なインタフェースの変更

• バイナリインタフェースが変更されました。ABIバージョンは0.98になっています。 コンパイルされた拡張モジュールは再コンパイルの必要があります。
• with-exception-handler のセマンティクスが、SRFI-18のものから R7RS/SRFI-34へと変更されました。違いは例外ハンドラが呼ばれる動的環境です。 SRFI-18では、raiseが呼ばれたのと全く同じ環境でハンドラが 呼ばれます。その環境には例外ハンドラの設定も含まれるので、例外ハンドラの中でraiseを 再び呼ぶと、明示的にハンドラを入れ替えていない限りは、同じ例外ハンドラが再び呼ばれます。 R7RSセマンティクスでは、例外ハンドラ設定だけが差し替えられるので、例外ハンドラ中でraise が呼ばれるとそれは外側の例外ハンドラを起動します。
  SRFI-18セマンティクスの方がR7RSのものより原始的で、 その上にR7RSセマンティクスを実装することができます。しかしほとんどの場合で求められるのは R7RSセマンティクスの方であり、 ハンドラの差しかえを忘れて無限ループに入ってしまう失敗が頻発するので、変更することにしました。
  従来のコードでハンドラの差しかえを行っているものは変更なしでそのまま動作します。 ハンドラ内のraiseで自分自身に再入することを前提にしていたコードは動かなくなりますが、 実用的にそれが必要なケースはほとんど無いと考えています。
• 拡張モジュールでdefine-cprocの型表記に、Cのdoubleを受け取る意図で <real>を書いているコードがあれば、できるだけ早くそれを<double>に変更してください。 スタブに使う型表記とGaucheの型システムの統合を進めていて、 <real>はGaucheの型として別のもの(Schemeの実数なので整数や有理数も含まれる)を指すのに 使っているためです。将来のバージョンでは、スタブでの<real>は単にScheme側の 型チェックだけで、Cから見てScmObjが渡ってくることになります。
• Gauche拡張をCで書いていた人に: gauche/bignum.h はプライベートになりました。 ScmBignumはユーザコードから直接使われることは意図されていません。 gauche/number.hにある汎用数値APIを使ってください。
• rfc.tls: このモジュールを直接使っている人へ。 新しいMbedTLS 3.0ではAPIの変更があり、 以前のtls-connectとtls-acceptインタフェース が使えなくなっています。クライアントについては、 新しいtls-connectインタフェースが提供されているのでそちらに移行してください。
• 1.0に向けて、スタブジェネレータ (ganstub) の大きな変更が進んでいます。 これまでもドキュメントはされていませんでしたが、 スタブファイル内でdefine-typeを使っている場合、それを declare-stub-typeに変更してください。以前のフォームもしばらくはサポートしますが。

新機能

並行プログラミング

• control.future: Futureのサポートです。
• control.cseq: 生産者を別スレッドで走らせる遅延シーケンスです。
• control.scheduler: 手続きを一定時間後、あるいは特定の間隔を 置いて走らせるオブジェクトです。srfi-120のタイマーAPIは この上に作られています。
• control.pmap: 並行マッピング。
• gauche.threads:
  • 新しい同期プリミティブ: セマフォ, ラッチ, バリア.
  • thread-terminate!: pthread_cancelのような強制的な スレッドの終了は、特別に指定しない限り行わないようになりました。
  • thread-try-start!: スレッドは実行開始前に終了状態に なることがあります。そういった場合を扱える手続きです。

新しいsrfi

• srfi-120: タイマーAPI
• srfi-196: 範囲オブジェクト
• srfi-197: パイプライン演算子
• srfi-217: 整数集合
• srfi-219: 高階lambda定義
• srfi-221: ジェネレータ/アキュムレータ追加ライブラリ
• srfi-229: 手続きタグ

型の拡張

「値をインスタンスとするクラス」以外に、値の特定の性質を記述できる型が導入されました。 直和型(「整数またはシンボル」)、オプション型、引数と戻り値の型情報を持つ手続き型等です。

今のところ、この型情報を活用できるところは、 assume-typeやof-type?以外には あまりありません。将来的には活用を広げてゆく予定です。

詳しくは型とクラスを見てください。

テスト結果報告の改善

• gauche.test: テスト結果の報告形式をカスタマイズできるように しました。その例としてサポートされているのが、複数行テキストの結果が期待と異なっていた場合に、 unified diff形式でレポートするものです。 (blogエントリ参照)。

その他

• 拡張ペアのサポートを公式にしました。拡張ペアは、ペアに追加の情報を載せられるもので、 これまで内部的に、S式を読んだ際にソースコード位置情報を付加するのに使われていました。 詳しくは拡張ペアとペア属性を参照してください。
• gauche.lazyの新しい手続き: lseq->list: 遅延シーケンスの全ての要素を現実化します。 port->char-lseq/position: キャラクタポートからの入力を、 位置情報をペア属性に持つ遅延シーケンスに変換します。
• gauche.mop.instance-pool: このモジュールも長らく内部的に使われていましたが、ドキュメントして公式にしました。
• sys-mmap, make-view-uvector: mmap(2) インタフェース
• degrees->radians, radians->degrees: 頻繁に定義される手続きなので追加。
• data.range: srfi-196の範囲オブジェクトのスーパーセット。
• util.lcs: lcs-edit-list/context, lcs-edit-list/unifiedを追加。
• text.diff: diff-report/context とdiff-report/unifiedを追加。
• gauche.vm.debugger: スレッドロギングの追加。 #?=のかわりに#?@=を使うと、スレッドごとに別のログファイルにデバッグログが 出力されます。ログが混ざってしまうのを避けられます。

改善点

• REPLでの行編集がデフォルトで有効になりました。もし行編集でおかしなことになったら、 REPLで,edit offとするか、Gaucheを-fno-read-editで起動するか、 環境変数GAUCHE_NO_READ_EDITを設定しておけばオフにできます。
• rfc.uuid: ランダムソースをパラメータにしました。 (uuid-random-source)。 uuid-random-source-set!は非推奨になりました。グローバルに 影響を与えるためです。
• parser.peg: 新しいパーザコンストラクタ: $raise, $cut, $list, $list*.
• data.priority-map: priority-map-min-all, priority-map-max-allを追加.
• data.queue: mtqueueに要素を追加した時に、 キューを「クローズ」することができます。クローズされたキューには要素を追加できなくなります。 詳しくはenqueue/wait!および blogエントリ参照。
• gauche.unicode: グラフィーム/単語分割をUnicode 13の仕様に追従。
• Windowsコンソール処理の改善 https://github.com/shirok/Gauche/pull/756
• data.heap: binary-heap-findの引数順を、 他の *-find 系手続きと合うように変更しました。古い引数順もサポートされますが、 新規コードは新たなインタフェースを使うようにしてください。
• tree-map->generator/key-range: 追加。
• srfi-42: :range qualifierで範囲オブジェクトをサポート。
• describe: いくつかのオブジェクトについてより詳細な記述を追加。 浮動小数点数、有理数、timeオブジェクト (srfi-19ロード後) など。
• gauche.test: 新たな便利手続き: test-remove-files, test-with-temporary-directory.

バグフィクス

• 負のゼロの扱い。特に、 (eqv? -0.0 0.0) は #f になります。 これはR7RSの仕様に沿います。詳しくはblogエントリを。
• MinGWでeq-hash計算がクラッシュすることがあったのを修正。 https://github.com/shirok/Gauche/pull/748
• sys-ctermid がローカルメモリにエクステントを越えてアクセスしていたのを修正 https://github.com/shirok/Gauche/issues/740
• srfi-189: either-guard をsrfiの最終版に合わせる
• Windowsのホームディレクトリの扱い https://github.com/shirok/Gauche/pull/757
• UTF-16サロゲートの扱いの修正 https://github.com/shirok/Gauche/pull/758
• srfi-19: ~V (week number) の仕様をISO8601に合わせる https://github.com/shirok/Gauche/issues/763
• rfc.sha: Cコードにstrict aliasing violationがあったのを修正
• ボックスを介した循環参照の表示を修正 https://github.com/shirok/Gauche/issues/787