GaucheはSchemeシンボルを若干拡張しています。
Common Lispのように、内部のテーブルに登録されない
「インターンされない(uninterned)」シンボルを作ることができます。
このシンボルは、他のstring->symbol
やread
が作るシンボルと
決してeq?
にならないことが保証されています。
Schemeの衛生的マクロは名前の衝突を自動的に回避するので、Common Lispほど 出番はありませんが、名前を持つユニークなオブジェクトが欲しい時には便利です。
名前がコロン:
で始まるシンボルは自動的に、gauche.keyword
モジュール内で
自分自身に束縛されます。このモジュールをインポートするか継承すれば、
そういったシンボルをまるで自己評価オブジェクトのように使うことができます。
Gaucheではキーワード引数でこの機能を多用します。
• 基本的なシンボル: | ||
• インターンされないシンボル: | ||
• キーワード: | ||
• キーワードとシンボルの統合: |
シンボルを表すクラスです。
|name|
¶[R7RS] シンボルの定義では通常許されないような文字を使った妙な名前のシンボルを表記するのに 使う構文です。16進数エスケープ表記を含めることもできます。
;; 空白を名前に含むシンボル '|this is a symbol| ⇒ |this is a symbol| ;; Unicodeコードポイントを、バックスラッシュとxからなるエスケープに続けて ;; 書くこともできます。セミコロンで終端します。 '|\x3bb;| ⇒ λ
インタプリタが大文字小文字を区別しないモードで走っている場合は、 大文字を含むシンボルを表記するときにも使えます (大文字小文字の区別参照)。
[R7RS base]
objがシンボルなら#t
を返します。
(symbol? 'abc) ⇒ #t (symbol? 0) ⇒ #f (symbol? 'i) ⇒ #t (symbol? '-i) ⇒ #f (symbol? '|-i|) ⇒ #t
[R7RS base]
全ての引数はシンボルでなければなりません。引数のどの二つの組み合わせを取っても
それがeq?
である時に限り、#t
が返ります。
[R7RS base] symbolの名前を文字列で返します。返される文字列は変更不可です。
(symbol->string 'foo) ⇒ foo
[R7RS base] 文字列stringを名前に持つシンボルを返します。
(string->symbol "a") ⇒ a (string->symbol "A") ⇒ A (string->symbol "weird symbol name") ⇒ |weird symbol name|
symbolとprefixは共にシンボルでなければなりません。
prefixがsymbolの先頭部分にマッチした場合、
symbolからマッチ部分を取り除いた名前を持つシンボルを返します。
マッチしない場合は#f
を返します。
(symbol-sans-prefix 'foo:bar 'foo:) ⇒ bar (symbol-sans-prefix 'foo:bar 'baz:) ⇒ #f
objsの文字列表記をつなげた名前を持つシンボルを返します。
最初の引数が真偽値の場合は、最初の形式と解釈されます。interned?引数は 結果のシンボルがインターンされているかどうかを指定します。
それ以外の引数はそれぞれ次のとおり変換されます:キーワードであれば
(先頭の:
を含む)名前に、それ以外はx->string
を適用した結果に。
(キーワードを特別扱いするのは、キーワード-シンボル統合の後でも動作が
変わらないようにするためです。詳しくはキーワードとシンボルの統合を
参照。)
これは、Biglooにある同名の手続きの上位互換になっています。Bigloo版は シンボルのみを引数に許し、また結果は常にインターンされます。
(symbol-append 'ab 'cd) ⇒ abcd (symbol-append 'ab ':c 30) ⇒ ab:c30 (symbol-append #f 'g 100) ⇒ #:g100
#:name
¶「インターンされていない」シンボルを表記します。インターンされていないシンボルは
gensym
かstring->uninterned-symbol
で作ることができます。
インターンされていないシンボルは、良く伝統的なマクロで
変数衝突を避けるために使われます。インターンされていないシンボルは
内部のシンボルのテーブルに登録されないため、同じ名前のシンボルでも
eq?
になりません。
(eq? '#:foo '#:foo) ⇒ #f (eq? '#:foo 'foo) ⇒ #f
インターンされていないシンボルが含まれるS式を、
シンボルの同一性を保って表示するには、
write-shared
を使います。
(write-shared (let1 s '#:foo (list s s))) ⇒ prints (#0=#:foo #0#) (write-shared (let ((s '#:foo) (t '#:foo)) (list s t s t))) ⇒ prints (#0=#:foo #1=#:foo #0# #1#)
[SRFI-258]
シンボルsymbolがインターンされていれば#t
を、
そうでなければ#f
を返します。シンボルでないものが渡された場合はエラーとなります。
これはSRFI-258に含まれています(srfi.258
- インターンされないシンボル(SRFI)参照)。
[SRFI-258]
string->symbol
と似ていますが、作られたシンボルはインターンされません。
(string->uninterned-symbol "a") ⇒ #:a
これはSRFI-258に含まれています(srfi.258
- インターンされないシンボル(SRFI)参照)。
インターンされてない、新しいシンボルを作って返します。
返されるシンボルは、他のシンボルとは決してeq?
にならないことが保証されます。
prefixが与えられた場合は、それは文字列でなければならず、
それが作られるシンボルのプレフィクスに使われます。これは主としてデバッグを
容易にするためのものです。
これはSRFI-258のgenerate-uninterned-symbol
と似ています
(インターンされないシンボル参照)。
キーワードは、自動的に自分自身に束縛されるシンボルのサブタイプです。 名前つき引数(キーワード引数)や、キーワード-値のリストで広く使われて います。
Gaucheにおけるキーワード引数のサポートについては手続きを作るを、
また独自にキーワード-値リストをパーズする方法については
let-keywords
マクロ(省略可能引数のパージング) も参照して下さい。
註: キーワードはかつてはシンボルと独立した型でした。互換性のために、 0.9.15までは、環境変数によって以前の振る舞いに切り替えるモードがありましたが、 そのモードはサポートされなくなりました。 以前の振る舞いに依存しているコードがあればキーワードとシンボルの統合を 参考にアップデートしてください。
:name
¶名前が :name であるキーワードとして読み込まれます。
obj がキーワードであれば、#t
を返します。
nameの前に:
を付加した名前を持つキーワードを返します。
nameには文字列かシンボルが許されます。
(make-keyword "foo") ⇒ :foo (make-keyword 'foo) ⇒ :foo
キーワード keyword の(先頭の:
を除いた)名前を文字列で返します。
(これは主に、キーワードとシンボルが別の型だった頃の古いコードをサポートする
ためのものです。)
(keyword->string :foo) ⇒ "foo"
キー-値のリストから値を取り出すのに便利な手続きです。 キー-値のリスト kv-list は偶数個の要素を持たなければなりません。 1つ目、3つ目、5つ目、… の要素はキーとして扱われ、 2つ目、4つ目、6つ目、… の要素は、その前の要素をキーとした値と なります。
この手続きは、キーの集合から key を探して、それが見つかれば、 対応する値を返します。 2つ以上のキーにマッチしたら、最左のものとなります。 マッチするキーがない場合、fallback が与えられていればそれを 返し、さもなければエラーを通知します。
kv-list が正しい偶数個の要素を持つリストでない場合は、エラーに なります。
キーワード-値リストの ‘キーワード’ と、key 引数は、実際には
キーワードである必要はありません。いかなる Scheme オブジェクトで
あっても良いです。キーの比較は、eq?
によって行われます。
この手続きは、STk から導入されました。
(get-keyword :y '(:x 1 :y 2 :z 3)) ⇒ 2 (get-keyword 'z '(x 1 y 2 z 3)) ⇒ 3 (get-keyword :t '(:x 1 :y 2 :z 3)) ⇒ #<error> (get-keyword :t '(:x 1 :y 2 :z 3) #f) ⇒ #f
get-keyword
と同様ですが、kv-list が key を
含まない場合にのみ fallback が評価されることだけが違います。
kv-list から key に eq?
であるキーをもつキーと値を
削除します。
delete-keyword
は kv-list を変更しません。しかし、
返されたリストは共通の末尾部分を共有します。
delete-keyword!
は新しくアロケートされることはありません。
そして、破壊的に kv-list を変更する可能性があります。
最初のキーがマッチした場合元のリストは変更されないこともありえますが、
返り値のリストを使わなければいけません。
key にマッチするキーがない場合 kv-list が返ります。
(delete-keyword :y '(:x 1 :y 2 :z 3 :y 4)) ⇒ (:x 1 :z 3)
delete-keyword
やdelete-keyword!
と似ていますが、
keysにオブジェクトのリストを指定できます。
kv-list中のキーがkeysのうちのどれかに一致すれば、
そのキーと続く値がkv-listから取り除かれます。
(delete-keywords '(:x :y) '(:x 1 :y 2 :z 3 :y 4)) ⇒ (:z 3)
• キーワードとシンボルの統合: |
以前のGaucheでは、キーワードはシンボルとは異なる型を持ち、自分自身に評価される
オブジェクトでした。
互換性を保つため、現在のGaucheでは:
で始まるシンボルは自動的に
(gauche.keyword
モジュール内に)自分自身に束縛されるようになっています。
gauche
モジュールはgauche.keyword
モジュールを継承しているので、
キーワードはあたかも自己評価されるオブジェクトのように見えます。
これにより、古いGaucheコードもほぼ変更なしで動作します。
ただ、いくつか注意すべき点があります。
(symbol? :key)
は以前は#f
を返したが、今は#t
を返す ¶キーワードに対してkeyword?
は常に#t
を返しますが、
シンボルかキーワードかで動作を変えるコードでは、キーワードの検査を先にするようにしてください。
;; 0.9.7以前は動作が異なる (cond [(symbol? x) (x-is-symbol)] [(keyword? x) (x-is-keyword)]) ;; どのバージョンでも動く (cond [(keyword? x) (x-is-keyword)] [(symbol? x) (x-is-symbol)])
以前のバージョンでは、util.match
やsyntax-rules
の
パターンにキーワードが現れた場合、それはキーワード自身とのみマッチしました。
現在のバージョンでは、キーワードはシンボルなので、パターン変数として扱われます。
;; 以前のバージョン (match '(a b) [(:key z) (list :key z)] [_ "nope"]) ⇒ "nope" ;; 現在のバージョン ;; :keyは単なるパターン変数となる (match '(a b) [(:key z) (list :key z)] [_ "nope"]) ⇒ (a b)
syntax-rules
でも同じことが起きます。
どのバージョンでも動くコードにするには、マッチさせたいキーワードが リテラルであることを明示してください。
match
では、キーワードをクオートしてリテラルであることを示します。
(match '(a b) [(':key z) (list :key z)] [_ "nope"]) ⇒ "nope"
syntax-rules
では、キーワードをリテラルリストに含めてください。
(syntax-rules (:key) [(_ :key z) (list :key z)]) ;etc.
(display :key)
は以前はkey
(コロン無し)を表示しましたが、
現在は:key
を表示します。
key
を表示したい場合は(display (keyword->string :key))
とすれば、
どのバージョンでも同じように動作します。
キーワード(:
で始まるシンボル)はgauche.keyword
モジュール
の中で自分自身に束縛されます。
Gaucheコードはデフォルトでgauche
モジュールを継承し、
それがkeyword
モジュールを継承しているので、
キーワードの束縛は自動的に見えるようになります。
しかしR7RSコードではgauche
モジュールは継承されないので、
:
で始まるシンボルもデフォルトではただのシンボルです。
通常、Gaucheの組み込み機能を使うには(import (gauche base))
としますが、
こうするとキーワードの自分自身への束縛もインポートされるようになっています
(gauche.base
がgauche.keyword
も継承しているからです)。
ただ、Gaucheの手続きとは別にキーワードをR7RSコード中で使いたい場合は
注意してください。自己束縛されているキーワードだけが欲しければ
(import (gauche keyword))
とする必要がありますし、
そうしない場合はキーワードに見えるシンボルでもクオートする必要があります。
(import (scheme base))
:foo ⇒ ERROR: unbound variable: :foo
(import (gauche base))
:foo ⇒ :foo
次の例では、R7RSライブラリfoo
が(gauche base)
から
copy-port
のみをインポートしています。こういった場合、
:size
キーワードをクオートなしで使うには、(gauche keyword)
も
別にインポートしなければなりません。
(あるいは、(gauche base)
からインポートするシンボルのリストに
:size
も明示するか)。
(define-library (foo) (import (scheme base) (only (gauche base) copy-port) (gauche keyword)) (export cat) (begin (define (cat) (copy-port (current-input-port) (current-output-port) :size 4096))))